カメラのレンズ内モーターについて調べてまとめてみた

2023 年 10 月 2 日カメラ

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カメラを使うに当たって、自動でピントが合うオートフォーカス(以下、AF)機能は必須といって良い機能だと思います。手動でピントを合わせるマニュアルフォーカス(以下、MF)でピントを合わせれば良いという話ですが、やはりあると便利です。

ピント合わせ時には、レンズの中のフォーカスレンズを稼働させるなり、レンズ全体を稼働させるなりする動力が必要になります(MFなら人力が動力になります。)

ピント合わせの動力として、レンズの中にモーターが搭載されているタイプと、レンズ内にはモーターが無く、カメラボディ側にモーターがあり、そのモーターと接続して動力源にする形になっているレンズに分かれています。

本エントリーでは、このピント合わせ時の動力、ボディ内モーターとレンズ内のモーターについて、調べたことをまとめていきたいと思います。

ボディ内モーターの歴史と長所・短所

歴史

かつては、モーターの小型化が出来ても、十分な強さの動力にならず、レンズ内にモーターを搭載してもAFが遅かったようです。また、まだ技術が未発達で、故障もしやすかったようです。逆に、カメラボディにはある程度の大きさのモーターを搭載でき、動力として十分で、AFが(当時のレンズ内モーターと比べれば)速く実現でき、安定性もあったようです。

NikonやPENTAXなどが採用していた歴史がありますが、一方でCanonのEFマウントは当初からレンズ内モーターでボディ内モーター駆動のレンズはなかったりします。それを実用レベルにし、今ではレンズ内モーターが当たり前の時代になるまでになっています。当時からCanonは、先進的なメーカーだったということでしょうか。

一方で、この時代に普及したレンズ内にモーターがないレンズでも、AFを実現するため、今でもPENTAXのKマウントのカメラボディには全てボディ内モーターが搭載されていたりします。メーカーによって考え方は様々ですね。

長所

ボディ内モーターの長所は、レンズ内にはモーターがない分、レンズの構造をシンプルにでき、故障しづらく、小型化でき、コストも下げられる点かと思います。

短所

短所として、近年のレンズ内モーターに比べると、動作音が大きく、AF速度が遅いということが挙げられます。

AF時にジーコジーコと音がして、ピントが合うまでに時間がかかることになるので、AF体験としてはかなり良くないです。ファインダーを覗き込んで構えてると、耳元で鳴る感じがします。慣れると気にならなくなるのですが、体験としては良くないかと思います。

レンズ内モーターの歴史と長所・短所

かつては小型モーターでは十分なトルクを得られなかったようですが、現代では、レンズ内に搭載できるモーターでも十分な強さの動力になり、AF速度も速く、また静粛性にも優れていることから、レンズ内にモーターを搭載するレンズの方が主流となっています。

長所

上述したとおり、音が静かで、AF速度が速いことが挙げられます。またカメラボディにモーターを搭載する必要はありません。

短所

レンズ内にモーターが無いものと比べると、レンズ自体は小型化出来ず、故障しやすくなり、コストが上がるという点にあります。

どちらが良いか?

ボディ内モーターとレンズ内モーターは、どちらが良いでしょうか?

良い、というのは個人の好みの問題でもあるのですが、だいぶ前から、大多数のメーカーのカメラで、無音で高速にAF出来ることが当たり前になってしまっていますので、市場性や他メーカーとの比較、実際の利用体験などの視点からは、レンズ内モーターが良い、ということになると思います。

ボディ内モーターのレンズのAFは、体験していただければ分かりますが、一番最初は、「えっ?」と思うくらい音がします(私は2006年にPENTAX K100D+キットレンズでAFしたとき「えっ?」って思いました)。うぃぃん!みたいな音がして、飼い犬を撮ろうとしたときは、飼い犬がこっちに振り向くくらいの音がしたのを覚えています。ある程度は慣れるのですが、レンズ内モーターと比べてしまうとやはり体験として良くないです。

レンズ内モーターが故障しやすいといっても、あくまで相対的なもので、普通に今から新品のレンズを買おうとするときや、カメラボディとセットでついているレンズがどっちがよいかといえば、それは当然ながらレンズ内モーター搭載のレンズかなと思います。(逆に、オールドレンズを選ぶときは、レンズ内モーターではないものを選ぶ方が故障してない可能性は高そうです。)また、価格についても、そもそもレンズは十分に高価な商品でモーター部品コストがそこまで大きい比重を占めるとは思えないです。

レンズ内モーターの種類

そんなレンズ内モーターですが、いくつか種類があります。コスト、特性、サイズ、設計上の都合などさまざな事情で使い分けられているようです。

なお、音がうるさいか否かは、個人の感じ方によっても違うので、あくまで感覚的な話です。また、静粛であるといっても、スチール撮影で外で撮影する時と、室内で動画撮影するときでは求められる静粛性は異なります。本エントリーで、「静か」「無音」などと表現していても、いかなる動画撮影時でも音が入らない、という意味ではありませんのでご注意ください。

大別すると2種類

レンズ内モーターに利用されるモーターは、大別すると2種類になるようです。

それは、ミニ四駆や電気自動車にも使われるようなよくある回転運動をするモーターか、もしくは直線運動をするリニアモーターかのいずれかになります。

1. 回転運動するモーター

電動機 – Wikipedia より回転運動イメージ

回転運動をするモーターは、駆動力によって、下記3つが採用されるようです。

  • DCモーター
    • 直流電流で動く最もスタンダードなモーター
  • 超音波モーター
    • 超音波を用いて回転駆動させるモーター
  • ステッピングモーター(パルスモーターとも)
    • 電磁パルスによって精密に回転駆動量を制御するモーター

2. 直線運動をするリニアモーター

回転運動ではなく、直線運動するモーターです。推力として、直流電流、電磁、超音波、圧力などの種類があります。

各メーカーの商品名や説明を見ると、単に「リニアモーター」となっていることが多いです。

※ステッピングモーターを用いて直線運動させるモーターを「リニアステッピングモーター」(参照: Wikipedia)や「直動型ステッピングモーター」(参照: 直動型ステッピングモーター)というようです。そのため、駆動力がステッピングモーターだからといって、回転運動するとは限らないようです。(回転運動を直線運動に変換しているのであれば、やはりステッピングモーターは回転運動であり、構造上どこまでをモーターと呼ぶのかという問題になってしまう気もするのですが、細かいことはよく分かりませんでした。)

それぞれのレンズ内モーターの特徴

それぞれのレンズ内モーターの特徴や、音がわかる動画などをまとめていきます。

DCモーター

DC = Direct Current(直流電流)で動くモーターです。最もスタンダードないわゆる「モーター」といえばこれかなと思います。

駆動には、ギアが必要となるため、位置決め精度が優れておらず、ピタッとAFセンサーで測距したところに止められず、位置調整が必要で、AF速度的にも、他のモーターに比較して遅いです。また、駆動音も他のモーターに比較してギア回転に伴う音が出てしまい大きいです。

最も汎用的なモーターであることから、故障率が低く、コストも低いのではないかと思います。

駆動音が大きいといっても、ボディ内モーターと比べると、だいぶ静かでAFも速いです。

DCモーターとボディ内モーターの駆動音の違いが分かる(1分16秒位置から)

DCモーターの各メーカー採用状況

メーカー名採用しているか呼称その他参照
Canon現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
Nikon現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
Sony一部のレンズで採用されています– スムーズAFモーター
– SAM(Smooth Auto Focus Motor)
公式サイト
FUJIFILM一部のレンズで採用されています– DCコアレスモーター
– 構造が通常のDCモーターと異なります
– 相対的に通常のDCモーターよりも静かです
公式サイト
Panasonic現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
OM SYMTEM / OLUMPUS現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
PENTAX (RICOH)一部のレンズで採用されていますレンズの商品名に「DC」と入っています公式サイト
SIGMA一部のレンズで採用されていますコアレスDCモーター参考: 70mm F2.8 DG MACRO | Art
TAMRON一部のレンズで採用されています– DCモーター
– OSD(Optimized Silent Drive)
公式サイト

超音波モーター

超音波を用いて、ロータを回転させることで駆動力を得るモーターになります。低速・高トルクで、小型化でき、ギアが必要なくなるため、DCモーターに比して静かに動作します。応答性、高制御性も備えている点も利点です。ただしトルクが強いため、細かい動作に向いておらず、この点でステッピングモーターの方が優位です(Canon特許技術なら細かい動作もいけるという話もあるようです。)。また、一般に寿命が短く、高速ではない点が欠点としてあげられます。

超音波モーターの各メーカー採用状況

メーカー名採用しているか呼称その他参照
Canon一部のレンズで採用されていますUSM(Ultrasonic Motor)超音波モーター搭載レンズはCanonが最も長い歴史を持ちます
3種類の方式があります
1. リングUSM
2. マイクロUSM
3. ナノUSM

※3.については、回転ではなくリニア方向に駆動力を発生させる点でリニアモーターに分類できそうです。
公式サイト
Nikon一部のレンズで採用されています超音波モーター(Silent Wave Motor)公式サイト
Sony一部のレンズで採用されています超音波モーター自体は、SSM(Super SonicWave Motor)と呼称2種類の方式があります。
1. 「ダイレクトドライブSSM」「DDSSM」と呼称している方式
2. 「リングドライブSSM」「RDSSM」と呼称している方式

※1.については、回転ではなくリニア方向に駆動力を発生させる点でリニアモーターに分類できそうです。
公式サイト
FUJIFILM現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
Panasonic現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
OM SYMTEM / OLUMPUS現行ラインナップでは採用情報を見つけられませんでした
PENTAX (RICOH)一部のレンズで採用されていますSDM(Supersonic Direct-drive Motor)レンズの商品名に「SDM」と入っています公式サイト
SIGMA一部のレンズで採用されていますHSM(Hyper Sonic Motor)レンズの商品名に「HSM」と入っています公式サイト
TAMRON一部のレンズで採用されていますUSD(Ultrasonic Silent Drive)公式サイト

ステッピングモーター(パルスモーター)

磁力を用いたモーターですが、駆動を細かいステップごとに行う方式のものをステッピングモーター、または単にパルスモーターと言うようです。雑に言うと、1パルスで1ステップ動くみたいな対応関係にあり、制御がしやすく静かです。

ギアに配置して小型化を志向したものと、リードスクリューに配置し速度を志向したものがあるようです。いずれにせよ、静かな動作になります。後者は、リニアな駆動を行うため「リニアステッピングモーター」とも呼ばれ、分類的にはリニアモーターかもしれません。

ステッピングモーターの各メーカー採用状況

メーカー名採用しているか呼称その他参照
Canon一部のレンズで採用されていますSTM2種類に分かれます
1. リードスクリュータイプ
2. ギアタイプ

※1.は、回転ではなくリニア方向に駆動力を発生させる点で「リニアステッピングモーター」として、リニアモーターに分類できそうです。
公式サイト
Nikon一部のレンズで採用されていますSTM公式サイト
Sony一部のレンズで採用されていますSTM公式サイト
FUJIFILM一部のレンズで採用されていますステッピングモーター公式サイト
Panasonic一部のレンズで採用されていますステッピングモーター参照: LUMIX G VARIO 35-100mm F4.0-5.6 ASPH. MEGA O.I.S.
OM SYMTEM / OLUMPUS一部のレンズで採用されていますステッピングモーター参照: 製品特長|M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO
PENTAX (RICOH)不明確
※レンズの商品名に「PLM」と入っているものが、これかもしれません(後述)
SIGMA一部のレンズで採用されていますステッピングモーター参照: 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary
TAMRON一部のレンズで採用されていますRXD(Rapid eXtra-silent stepping Drive)公式サイト

リニアモーター

回転駆動では鳴く、直線駆動を行うモーターです。静かで高速な動作が可能になります。

カメラ用レンズとして採用されている推力は、超音波と電磁のようです。

リニアモーターの各メーカー採用状況

メーカー名採用しているか呼称その他参照
Canon一部のレンズで採用されています超音波を推力とするナノUSMは、回転ではなくリニア方向に駆動力を発生させる点で、リニアモーターに分類できそうです。その他、特許などで違うもの?の採用や強化を検討していることがうかがえるようです(参照: キヤノンのリニアモーターを使用したフォーカス装置に関する特許出願 – とるなら 写真道楽道中記公式サイト
Nikon一部のレンズで採用されていますVCM(Voice Coil Motor)と呼称されています(参考: ボイスコイルモータ(VCM)とは? | 青山特殊鋼株式会社公式サイト
Sony一部のレンズで採用されています– LM
– XD LM(extreme dynamic Linear Motor)
– さらに改良を行ったLM
公式サイト
FUJIFILM一部のレンズで採用されていますLM搭載レンズは、名称に「LM」と記載されています公式サイト
Panasonic一部のレンズで採用されていますリニアモーター推力は電磁と思われますが、超音波をアシストに利用しているようです参照: LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.
OM SYMTEM / OLUMPUS一部のレンズで採用されていますリニアモーター参照: 製品特長|M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
PENTAX (RICOH)レンズの商品名に「PLM」と入っているものが、これかもしれません(後述)
SIGMA一部のレンズで採用されていますHLA(High-response Linear Actuator)参照: 60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS
TAMRON一部のレンズで採用されていますVXD(Voice-coil eXtreme-torque Drive)公式サイト

PENTAXのPLMについて

PENTAXが最近採用している「PLM」は、公式サイトでは、「Pulse Motor」となっており、海外のレビューサイトでは、Pulse-Linear-Motorとなっていたり、twitterではステッピングモーターと記載する人もいたりします。

https://twitter.com/SeanHunt_Photo/status/1691638920080191819

PENTAXの公式サイトによる説明図を見ると、リニアモーターにも見えるんですが、これが、Canonの公式サイトにあるステッピングモーターのリードスクリュー直付けタイプにも似ています。

図だけでは、素人の私には、ステッピングモーター(パルスモーター)なのか、パルスリニアモーターなのか、分かりませんでした。ステッピングモーターをリニアな駆動にした「リニアステッピングモーター」なのかもしれません。

いずれにせよ、PENTAXの PLM は、静かで速いです。

どのモーターが良い?

レンズの構成、大きさ、重量、設計などによって、どのレンズ内モーターが良いかは決まるため、一概にどのモーターが良い、ということはありません。

FUJIFILMのQ&Aで、レンズ一覧と採用レンズ内モーターの一覧があり、なるほどレンズに合わせて採用しているんだな、ということがわかります。

まとめ

本エントリーは、PENTAXのPLMがよくわからんためにいろいろと調べてまとめてみたものなのですが、結局上述のとおり、PLMはよく分かりませんでした。だれかご存じの方いたら、ソース付きで教えていただけるとありがたいです。

参考サイト

公式系

非公式系

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